永治談話室

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2020.03.10永治逸話

池田永治の世界 ―花袋との出会いとその業績


池田永治は洋画家である

 木版業を生業とする家に生まれた永治は、画家を夢見る少年であった。家業を継がせようとしていた父のもと、十六歳(明治三十七年)で私立前川虎山塾に入門、絵の勉強をしながら当時の青年雑誌「中学世界」、「ハガキ文学」、「文章世界」の応募画にコマ絵を投稿し続け、明治四十年頃から各誌に掲載されるようになった。
 明治四十二年十一月、前年の春に父を亡くし家督を継いだ永治は、本格的に画業を進めるためにひとり大阪から夜汽車で上京した。早速上野に赴き、第三回文部省美術展覧会(文展)を見、感動のまま会場を後にした。大家の絵に触れた興奮もいまだ醒めやらぬような翌四十三年一月、明治三十五年に満谷国四郎、吉田博、木下藤次郎らによって結成された太平洋画会の附属洋画研究所(明治三十七年、東京下谷に創設)に入り、夢の一歩を踏み出した。

洋画家としての軌跡

 明治四十三年、第四回文展に「牧場」を出品、入選を果たし褒状を受けて以来、文展(四回)、帝展(八回)、新文展(八回、うち無鑑査四回)、日展(三回)と、昭和二十二年までに数えて二十三回の出品歴を残した。
 一方、明治四十四年一月、太平洋画会会員に推薦された永治は、その年の太平洋画会展(第九回)にはじめて出品、その時の作品「風景」は宮内省に購入された。以来、同展覧会には作品を欠かさなかった。
 また、昭和四年、太平洋画会附属洋画研究所は太平洋美術学校と改称した。この十月に池田永治は母校の教授に任命され、後進の指導と画家という二つの道を歩むことになった。
 しかし、池田永治の業績はこれだけにとどまらない。挿絵・装幀画家、漫画家、俳画家としてその第一線で活躍をした。

挿絵・装幀画家

 挿絵家としての根は雑誌の応募投稿によって培われた。そこで作品の優秀さを認められた永治は、明治四十五年頃から博文館発行の雑誌(「文章世界」、「中学世界」、「農業世界」)の挿絵や表紙、単行本の装幀を担当するようになった。
 石井柏亭、黒田清輝、青木繁、鏑木清方、小川芋銭など、当時の第一線の画家たちも多く挿絵、装幀に携わっていた。
 永治の挿絵の特徴は、太い線で描き、社会を凝視して何ものをも見逃さない厳しい視線を持ちながらもユーモアを持っている点にある。
 また、永治が手懸けた単行本の装幀で一番多いのが、田山花袋著書である。何故かその大部分が紀行文(花袋生前最後の出版となった紀行文「山水百記」(昭5・4・20)も永治の装幀)であり、他に印象的なものは「東京震災記」(大13・4・20)であるが、いずれも花袋にとっては思い入れのある作品と言える。

漫画家

 大正四年の東京漫画会、大正十二年の日本漫画会設立に関与し、下川凹天、岡本一平、前川千帆、細木原青起、池部鈞、田中比左良らと共に、「アサヒグラフ」、「読売新聞」及び日曜附録「読売サンデー漫画」、第三次、四次「東京パック」と幅広く作品を掲載、また、「現代漫画大観」(昭8~9)の執筆を担当するなど大正期から昭和前期における漫画全盛時代の一翼を担った。
 永治の場合、名俳句の漫画化という独特の世界―「俳漫画」を創作したことは注目に値し、ユーモアと皮肉と風刺を持つ社会派的精神が遺憾なく発揮された。

俳画家

 永治は生前、自分の尊敬している人は正岡子規と小川芋銭であると家人に語ったという。
 大正四年、小川芋銭らの推薦で新日本画研究団体「珊瑚会」の同人となり、日本画もよくした。
 また、昭和六年七月頃から、子規などの俳句を漫画で解釈する「名俳句を漫画にすると」と題した俳漫画の連載(「読売サンデー漫画」)が見られるようになる。
 俳画は俳句の洒脱さと日本画の淡彩とが一つになったものである。それは尊敬する二人―子規、芋銭を象徴するものであり、永治にとって理想の境地だったのではないだろうか(ちなみに、永治は晩年に私家版句集を二冊持つ)。
 昭和十六年十二月、池田英治はじめての著書「新理念 俳画の技法」が上梓された。
 以上、四つにわけで池田永治の業績を見てきた。
 池田永治を一本の樹木にたとえるならば、太幹は洋画家であり、他は花や実をつける枝であろうか。
 その枝の一本―挿絵・装幀画家の成長を見守った人が、田山花袋である。二人は雑誌「文章世界」を介して出会った。はじめは編集者・誌友というかたちで、永治の挿絵が認められるようになってからは師弟という関係に昇華した。
 鈴木清方、平福百穂、橋本邦助、中村不折、中沢弘光、和田英作、岡田三郎助、橋口五葉、名取春仙、津田青楓ら花袋本装幀者の中でも、池田永治は大きな位置を占めていたのである。

文:丸山幸子(まるやまさちこ・田山花袋研究家)
丸山家ご親族ご提供

 

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